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マタンゴ  1963年 東宝

マタンゴ

[原案] 星 新一、福島正実
[原作] ウィリアム・ホープ・ホジスン「闇の声」
[監督] 本多猪四郎

[出演]
村井研二(久保明)・・・・・・・・・・・唯一の生還者、大学の若い心理学助教授
相馬明子(八代美紀)・・・・・・・・・・村井の心理学教室に勤務している質素で堅い女性、村井の恋人
笠井雅文(土屋嘉男)・・・・・・・・・ヨットのオーナーで企業の若社長、麻美のパトロン
作田直之(小泉博)・・・・・・・・・・・ベテランのヨットマンで理性派、親子共々笠井家に面倒を見てもらっている
吉田悦郎(太刀川寛)・・・・・・・・・推理作家、麻美とできている
関口麻美(水野久美)・・・・・・・・・笠井と吉田が足繁く通うナイトクラブのセクシーな歌姫、ラジオ・テレビにも出演しているらしい
小山仙造(佐原健二)・・・・・・・・・笠井のヨットに臨時で雇われた水夫、生き抜く事に人一倍貪欲だが…


東宝のド古い特撮映画です。私は劇場でも観ていませんし、もしかしたら今までにTV放映されたかもしれませんが、残念ながら
一度も見た事がありませんでした。穢れ無き少年時代に何の雑誌だったか忘れましたが、小松崎茂先生の挿絵
(イラストと言うのでしょうか)でオドロオドロしいマタンゴの画を見て衝撃を受け、純真な心の壁に血糊のようにこびり付き現在に至っていました。
そんなワケでストーリーはある程度知っていましたが、映像は今回DVDで初めて見たので嬉しかったです。
古い映画もDVDで手軽に鑑賞できるなんて、良い時代になりましたよね。この映画も絶対に外せない作品の1つでした。

ちなみに「ツタヤ」ではお試し期間内の2週間では借りる事ができませんでした。現状(06年08月)では「Mプラン借り放題」でレンタルする事は
奇跡に近いかもしれません。「ぽすれん」でも入会当初、1週間位は常時貸し出し中の為にレンタルできませんでした。
「こんな化石のような映画を借りるやつなんて居ないよな」と、思っていた私でしたが、マニアックな方々が存在していて驚きました。
正直申し上げて、古典の特撮映画ですからマタンゴの姿に期待してはいけませんが、この映画はテーマが深いです。

[ストーリー]
ある病院の1室、毒々しい程煌びやかな都会のネオンが輝いている窓の外を眺めながら、「ここは精神科の病室でしょう?」と、男が言うと
映像には写っていない医師が「いえ…」と否定する。この尋常ではない初っ端のセリフから物語りはスタートする。
この男は仲間と一緒に海で遭難し、唯一生還した村井(久保明)だった。

ある日、5人の男と2人の女が和気あいあいの雰囲気に包まれてヨットでクルージングを楽しんでいたが、これから急転直下
想像を絶する地獄絵図に堕とされようとは誰も予想だにしていなかった。
(土屋嘉男、小泉博、水野久美さんもこの頃は若かったんですね…と当たり前の事に、妙に感嘆する私でありました)

一行を乗せたヨットは夜中嵐に遭遇して大破、南へ南へと漂流してしまう。食料も乏しい中、やがて無人島に漂着する。
島を探索すると偶然に国籍不明の難破船を発見するが、船内は埃、原色のケバケバしい苔・カビに覆われ、乗員が暫くの間
生活していた痕跡はあるものの人の姿は無かった。そして、不思議な事に船内中の鏡は取り外され1枚も残されていなかった。

そしてマタンゴと書かれた1つの木箱を見つけて開けると中には大きなキノコが入っていた。
木箱には「マタンゴ、キノコの一種、この島で初めて発見された新種」と書かれていた(日本語ではない)
登場人物たちの会話から水爆実験の影響を匂わしているし船も何かの調査船を指しているようだが詳細は定かでない。

皆は難破船内の一部を洗浄して寝ぐらにした。僅かに残こされていた食料(缶詰)も発見して微かな希望を見い出すが、
それは仲間同士で醜いエゴ、本性をぶつけ合う修羅場の始まりだった。この映画では人間の醜い本性が浮き彫りにされていく。
そして、ここは鳥も寄りつかない不毛の島だった現実に愕然とする、やがて食料も乏しくなり絶望の淵に立たされ、より一層
本能丸出しの極限状態に置かれていく。
公平に食料を分け合おうと言いつつ、こっそり自分だけ食べたり、海亀の卵を獲ってきて金を持っているやつに売買したりするやつ。
あげくの果てに「その女をよこせ」と言う輩もでてくる。ただし、映像的にはエロティックの‘エ’の字もありません、あしからず。

キノコ(マタンゴ)を食べると‘何か悪い事が身に起きるらしい’という現象を早い段階から知っていた登場人物たちだったが、もう食べるしか
生き残る道が無い程に極限状態になっていた。この映画が醜悪なのはマタンゴを食べた者が他の人にも食べるように誘う事だ。
マタンゴを食べると‘この島での生命’は保障されるが、それと引き換えに己の身と心はマタンゴになってしまう。
ヒトである尊厳を守り餓え死にを選ぶか、醜いマタンゴに成り果てても生を選ぶか…んーダーク過ぎる、シリアスなテーマです。

若い頃のピチピチした水野久美さんが艶っぽく演じて、そしてマタンゴを食べた後のメイクは必見、さらに妖艶になっています。
着ている衣装の色のケバさと相まって、完全マタンゴ化する前の‘精神的マタンゴ女’を表現しています。
そしてその麻美(水野久美)に連れ出された笠井(土屋嘉男)は、「おいしいわ~」と言いながらマタンゴを食べている
麻美の誘いに我慢できず、ついに極彩色の小さいマタンゴに手を伸ばします。このキノコには麻薬作用があり、
その貪り食う表情は目が虚ろで半開き、恍惚としてある意味怖いです、それを眺めている麻美の真っ赤なルージュが悪魔の微笑。

メイクも控えめな‘質素で堅い女’の明子(八代美紀)が‘半マタンゴ人’に拉致されてしまいます。
村井(久保明)がライフル銃を持って救出に向かうと… …原色ケバいキノコに囲まれ「せんせ~~せんせぇ~」と言いながら手招きしている。
その一方の手には小マタンゴが、そして「おいしわ~ホントよぉ」と妖しく微笑む表情はメイクが濃くなって妖艶になり、
目が、唇が、村井を誘っています、快楽と背中合わせの魔界へと。
「あ~ぁ、この人も、ホントにマタンゴを喰っちまったんだな…」と、観ている者に絶望感を与えているのが見事です。
それにしても麻美といい明子といい、おぞましい物でも観せられている感じを受けて鳥肌が立ちました。

国籍不明船の乗務員たちもマタンゴを食べてしまったんですね、それで、段々にマタンゴに化けていく己の醜い姿に
絶望し悶え嘆き、1枚残らず鏡を破壊したのでした。麻美も、御自慢の美貌が醜く朽ち果てていくのを鏡で見て狂乱絶叫する事でしょう。
それでも、この不毛な島で生きていく為にはマタンゴにならなければならないのです。

極彩色なネオンの夜景に象徴された淫欲な人間世界とケバケバしい極彩色に満ちたマタンゴの世界は同じようなものだと
映画は言っているようです。またラストシーンの描き方は意味深で、どういう風に解釈していいのか…
村井(久保明)は観ている私たちに課題を投じます。