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第十八話・外伝「Down !」

第十八話・外伝「Down !」著者 K先生(別名 K氏)・・・寄稿ありがとうございます。2005年08月24日更新

8月20日、土曜日だというのに仕事だ。内容の質は大したことがないが量がいつもよりも多い。
今日中に片付かなければ明日も会社に出てくることになるだろう。
・・・それにしても暑い。ガツン、とした暑さではないがどんよりとした暑さだ。

こんな工場の中でさらに蒸し暑い自動機械とにらめっこしていると、どこからか唸り声が聞こえてきた。
そのうち、窓の外を閃光が包み込む。
  “雷だ!。”
雷神様が来なすった。そういえば昨日も雷が鳴っていた。雷は怖くないが、こんな仕事・・・自動機械を担当していると少し慎重になる。
「落ちなきゃいいねぇ~」と同僚がからかうように声をかけてきた。彼の担当は自動機械ではないのでいい気なものだ。
「まぁな。落ちないことを祈るぜ。」俺はそう言って自動機械をスタートさせた・・・START・・・工具が唸りを上げて回転し始める。
高速回転する工具が金属のカタマリを削り取り、少し離れてはまた次のカタマリを削り取る・・・。

  “・・・ビシュン!”

その時だった。一瞬にしてあたりが真っ暗になる。いや、急に照明が消えたのでそう感じただけだったのだが。
辺りを見渡すと、製造現場内の全ての照明が消えている。普段は途切れることなく鳴り響いている機械のノイズが全く聞こえてこない。
従業員は皆、互いの顔をきょろきょろと見ているだけの滑稽な景色だった。つまりは落雷で停電したのだ。
「やべぇ、落ちちまったか。」
と呟きながら、Windowsが動いていたはずのPCのモニタが真っ暗なのを確認していると、上司がニヤニヤしながらやってきた。
「ここも加工中に電源落ちたね」と彼は沈黙した機械を指差しながら俺の目の前を通り過ぎていった。

しばらくすると、サーマルリレーの動作するカチッという音とともに辺りが明るくなり、機械のノイズが聞こえてきた。電力が復帰したらしい。
従業員も再び仕事に取り掛かっていた。この季節に1度や2度はこんなことが起こるのも当たり前になった。
ため息をつきながらPCと自動機械の電源を入れ直す。幸い目立った被害はないようだ。なんとか自動機械の復帰をしてPCの前に座る。
 「そういえばサーバは大丈夫だったかな・・・。」
自分が設置した第2サーバはこの間、無停電電源装置を装備したばかりだ。
しかし、その装置は古くて捨てられたような代物だったので、少し気になっていたのだ。慌てて第2サーバの設置場所へ向かった。
サーバのモニタをチェックしてみると何事も無かったの様に報告画面になっていたので問題無い。
その後に第1サーバの設置場所へ向かった。こちらのサーバは自分ではなく曹長の管理下で、まだ無停電電源装置を装備する前だった。
‘曹長’とは個人的にそう呼んでいるだけで、実際には他部署の先輩であり、社内ネットワークの水面下で〈もぐり〉のサーバを立てた仲間でもある。

その肝心な曹長は昨日・今日と有給休暇で欠席していた。サーバPCを見てみると電源が入っているようだ。
近くの別の先輩に聞いてみると、(製造)部長達がやってきて電源を入れていったらしい。やっぱりな、と思って自分の部署に戻った。
自分のPCでブラウザを起動してみた。社内用ホームページが表示・・・されない。
ははぁ、第1サーバでWebサーバソフトが実行されていないのだな、と思いWindowsネットワークの一覧を調べてみた。
あぁっ?・・・無い!、第1サーバが現れないのだ。第2サーバや他のクライアントPCは表示されている。
先ほど第1サーバの電源が入っていたのを確認していたのだが・・・。

Webサーバソフトが実行されなくても、サーバPCが起動していればWindowsネットワークの一覧に出てくるはずだ。これはおかしい。
社内の様子を聞き込み調査しながら再び第1サーバの設置場所へ向かう。やはりどのクライアントからも接続できない状況らしい。
再び第1サーバの設置場所・・・曹長のデスクに着いた。
まずはサーバがどういう状況か把握しなければならないが、モニタの電源が供給されていなかった。ハブとサーバPCのみ電源が供給されているらしい。
モニタの電源コードをたどっていき集中タップのスイッチを入れた。
しかし、画面は表示されない。そういえばモニタ等を切替えて使っていたことを思い出し、隠れるように潜んでいた切替器を見つけてボタンを操作した。
が・・・しかし、それでもモニタが映らない。
考えていると先輩のYさんと設計のW君もやってきた。2人の部署では第1サーバが動いていないと仕事に影響を受けるので困って来たようだ。

Y or W「電源は?」
俺「入っているみたいです。」
Y or W「どうなってるの?立ち上がってないの?」
俺「今モニタの電源を入れて確認しようとしているんだけど、モニタの電源が入らないんですよ。」
Y or W「じゃあ・・・全部入れてみる?」
俺「そうですね、試してみましょう。」

集中タップの電源スイッチを全て入れてみた。
「ついでにこっちの電源も入れてみたら?」
W君の指差したものは曹長が仕事で使っているクライアントPC(SX260)だった。
「・・・念のために入れてみるか。」
あまり気が進まなかったが、原因を追究するために結局全ての電源を入れることになった。
するとクライアントPCのWindowsの起動画面がモニタに映った。
「あ、映ったね。じゃあこっちは?」
切り替えてみるとサーバの画面が映った。しかし、その画面は一同を愕然とさせるものだった。

“パスワードを入力して下さい”

その画面はWindowsのログイン画面のような華やかなものではなく、見たことも無い黒い背景にフィールドが一つ、素っ気無いものだった。
おそらくBIOSレベルのパスワード、これを通過しないとOSすら起動しないだろう。
そこまで思考が辿り着いた瞬間、俺の頭の中でMISSION:IMPOSSIBLE――スパイ大作戦のテーマが流れ始めた。
「とりあえず何か打ち込んでみようぜ。」
W君が言ったのだが、おそらく3人とも同じ意見だったはずだ。Yさんが会社の名前とかがそのままパスワードかもしれない、と言っていたが、
俺は曹長に限ってそんな安直なパスワードは設定しないだろうと直感した。
実際、ありとあらゆる思いつく単語を入れてみたが、全てのパスワードは無機質な入力画面を変えることが出来なかった。
やっぱり管理者を呼ぶしかない。Yさんと部長が連絡を取ろうとしてみたが、自宅は留守で携帯にも繋がらないということだった。
なんてこった、こんな時にサーバを立ち上げられる人間は会社にはいないのだ。もうあきらめるしかない、他の手を考えよう。

俺「中のデータは他のPCには無いんですか?」
Y氏「いや、このサーバにだけ保存したファイルもあるんだ。」
俺「ではとりあえず間に合うものだけで仕事を進めるしかないですね。」
  おーぃ!・・・・曹長、早く電話に出てくれぇ~!。

解決しないまま20分が経過した。俺は自分の仕事をしながら、あの無機質なBIOSパスワードの画面を思い出していた。そこへ部長がやってきた。
「携帯に繋がったよ、佐久市付近のコンビニにいるそうだ。」
曹長と連絡が取れたらしい。自分の仕事の最中だったが、上司命令だということにしておき、早速曹長のデスクに向かった。
曹長のデスクで部長が再び携帯でダイヤルした。10秒・・・20秒・・・繋がらない。部長が再びダイヤル・・・繋がったらしい。部長から携帯を受け取った。
部長は適当にメモ用紙とペンの準備をしていたが・・・そんなところに他人のパスワードを書いておくつもりかよ?
俺は見て見ないふりをして電話に出た。
「もしもし?!今大変なことになっちまっていますよっ!!」
どうせ話の大筋はすでに伝わっているはずなので、俺はわざと少し大げさな切り口で話し始めた。念のため現在までの状況を説明し始める。
俺「落雷で停電しちゃって、サーバが落ちたんですよ。」
曹長「あれ?そっちは雨が降ったんだ?」

電話の向こうとは天気が違う・・・どうやら大気が不安定だったせいで局地的な雷雨だったようだ。
「それで、電源を再投入したわけですが、パスワードの入力画面で止まっています。」
さすがに相手は担当者なのでそれからの話はスムースに進んだ。BIOSのパスワードを聞いて入力・・・声に出さずにな・・・で、ENTER。
おや?画面が変わらない。そういえば最初からキーボードに違和感があった。NUMLOCKランプが反応しないのである。
NUMLOCKランプはキーボードが効いているかどうかの判断材料になるのだ。

俺「あれ?キーボードが効いているのかな?何か文字を入れると星印か何か出てきますか?」
曹長「出てくるね。」
俺「じゃあこの画面でも、NUMLOCKはランプ点きますよね?」
曹長「点くはずだよ。」
俺「ああ、点いてませんね・・・。」
ちょっと前にケーブルを辿っていた時には確かにキーボードが繋がっているし、クライアントPCでもキーボードは効いていた。
もしかするとサーバPCだけが〈USB〉キーボードを認識していないというのはどうか?
「ちょっと待って下さい。キーボードが認識されていないみたいなので、サーバの電源を入れ直します。
この画面で直接電源を落としても大丈夫ですね?」

了解を得てサーバPCの電源を再投入した。POST画面を通り過ぎ無機質で鉄壁のパスワード画面が再び姿を現した。先程のパスワードを入れてみる。
鉄壁のパスワード画面はあっさりと移り変わり、Windowsの起動画面へと進んだ。やはりキーボードが認識されていなかっただけのようだ。
そうなると20分前にやってみたパスワード入力は全く意味の無い、愚かな行為だったようだ。
「で、次のパスワードでWindowsにログオンしてくれ。」
曹長の指示でログオンする。WebサーバとFTPサーバはアプリケーションとして扱っているので、ログオンしてから実行するということだった。
セキュリティの警告がいくつか出てきたがとりあえずかわして任務を完了した。

「曹長、BIOSのパスワードやめて、サーバはサービスとして実行しましょうよ。じゃないと誰も復帰できませんよ?」
俺は皮肉たっぷりにそう言った。曹長は彼なりの理由があったことを言い訳したが、すぐに改めざるを得ない状況になるだろう。
携帯電話を部長に返した。そしてYさん、W君、関連する人達にサーバ復帰の連絡をした。
自分の部署に戻ると、俺は早速第1サーバのデータを第2サーバにコピーするのだった・・・。

・・・・・・・・・・・[完]

【管理人より補足説明です】

[曹長] 私です。部署のHPで「バンド・オブ・ブラザース」から借用した人物画像に私の名前をつけて「**曹長」と自己紹介している為。

[部長] (製造部)部長、過去コラムの中の‘天敵さん’と同一人物です。

[著者 K先生(別名K氏)] 第三話・第十五話で登場。このページの作者です。

[パスワードを入力して下さい] BIOSで設定してあるパスワードです。第1サーバ機は個人的所有権を放棄していない為・・・と言うより、妖しい個人的なファイルがハードディスク内に多数残っているので触られたくない(爆)。
でもそろそろ所有権を放棄して第2サーバの隣に設置する予定。

[第1サーバ] 元もぐりサーバ2号機 C2/50L Windowsサーバ

[第2サーバ] このネットワークプロジェクト開始してから新規にK氏が立ち上げた本格的UNIX系サーバ・・・「もぐり」という言葉とは無縁。

[切替器] 第1サーバーとSX260を切替機で1台のモニタとキーボード・マウス(共にUSB)を共有して使っている。

*今回の原稿は22日(月)にお預かりしましたが当方の体調不良の為、アップロードが遅れてしまいました。お詫び申し上げます。

  • 2005年08月24日(水)23時12分

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