2004年03月13日更新 フィクションNo10-2「3月14日・季節の終りに/寓話 狼」
(これはフィクションNo10「3月14日・季節の終りに」の草稿からカットした部分です。)
遠ざかる、よく似た後ろ姿を咥えタバコで眺めていたM氏は、惜しいけど、もうY美を誘う事はないと思った。
後ろ姿が見えなくなるのを見届けたM氏は電話ボックスを探しながらゆっくり歩いた。
彼女に何て言おうか?・・・そればかり考えているうちに電話ボックスを見つけ、躊躇うように受話器を取った。
M氏「もしもし、オレ・・・Mです。今、街だけど帰るところ。ちょっと聞いてよ、面白い話を作ったから・・・聞いてる?」
N美「聞いてるよ・・・」
M氏「昔・昔あるところに一匹のオオカミがいました。オオカミは小心者で嘘つきで嫌われ者でした。」
N美「あなたと同じね」
M氏「茶化すなよ、黙って聞きなってばっ・・・まあいいや、それで・・・オオカミは下手なくせに狩りが好きでした。
ある日、狩りに出掛けた時に大ケガをしました、それで・・・獲物にありつけないオオカミは心が荒れていました。
そこへ、群れから逸れたバカな子羊がノコノコやってきました。それで・・・
N美「それで?」
M氏「それで・・・子羊はオオカミを恐れることも無く近づいてきて、可哀そうだと思ってオオカミの傷を癒すように
舐めました。オオカミはそんなバカな子羊を・・・無邪気な子羊を食べる事が出来ませんでした。
N美「・・・・」
M氏「オオカミと子羊は一緒に生活するようになりました・・・狩りは・・・狩りは子羊が悲しい顔をするから
止めました・・・元々下手なんだから。でもベジタリアンになって満更でもない様子でした。
毎日、歌を歌ったり、絵を描いたり、ピクニックに行ったり楽しい日でした。でも・・・でも別れの日が
やってきました。子羊は成長して大人になり、群れに帰る事になりました。羊はオオカミに言いました・・・
一緒に行こう、って・・・一緒に行きましょう、って羊が言うんだょ・・・バカだよね、行けるワケ無いのに。
タバコ、吸っていいか?」
N美「いいょ・・・」
M氏「そのあとは・・・羊が群れに帰った後だな・・・オオカミは本能が目覚めて狩りを始めました。
ある日、獲物の山羊を2匹見つけました。1匹は別れた羊と似ていたので獲物にする事が出来ませんでした、
もう1匹には逆に咬みつかれて逃げられました・・・オオカミは以前より狩りがもっと下手になりました」
N美「おバカなオオカミさんね」
M氏「まぁね・・・それでオオカミは狩りをする度に悲しそうな羊の顔を思い出しそうなので、
もう狩りをするのを止めました」
M氏「じゃぁな・・・今でも好きだよ、チャオ」
M氏はN美の言葉を聞かないまま受話器を置いた・・・彼女の台詞は解っていたから
2001/12/13更新の寓話「狼」は、このコラムサイト(旧斜に構えコラム)の創作文シリーズでは一番最初の作品でした。
今ではM氏シリーズのポリシーと言うのか・・・まぁ「概念」的な作品と言った方が正解かもしれません。